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Walking Cascade|北出智恵子



 私たちの日常は、映像などのデジタル・メディアを介した情報であふれている。本展のために新たに考案された《Walking Cascade》において、オル太はデジタル・メディアによる伝達体験を河川や湖から流れ落ちる滝に喩えた。人が滝に対峙する時の体験は、現地までの道のり、眼前に広がるパノラマ、水の流れる音やしぶき、周囲の温湿度や環境などを全感覚で体得する。よってその記録映像は二次的なものである。現代の情報化社会において、経験や記録の在り方が逆転し、映像による視覚経験が一次的なものとなることがしばしば起こるが、では、知覚の構造はいかに普遍的でまた変容しているのであろうか。本作品は、映像を生み出す身体、それを受容する身体、そしてその記録を伝える媒介にかかる蓄積と変化を視覚化する試みである。
オープニングではオル太によるパフォーマンスが行われる。このパフォーマンスは日本の六斉念仏踊り(ろくさいねんぶつおどり)に着想を得ている。各家の前で精霊供養のために踊られ、関西地方の農村を中心に分布するこの民俗芸能の伝承、芸態は地域により異なるが、例えば、太鼓、鉦(かね)、笛などと共に少人数で一晩中踊り続けられていたようだ。オル太のパフォーマンスでは日常品などで新たに作られた楽器と自身の声が奏でられ、舞いが展開する。そして、このパフォーマンスが記録された映像が展覧会の会期中再生されることにより、行為は再演され続ける。作家という身体を媒介した実践と再演、映像による記録と再生、そしてこれらに対峙する鑑賞者の身体の介在により、意味の絶え間ない変換と更新がインスタレーションという場で繰り広げられる。そうして《Walking Cascade》は身体を介する伝承と情報の変容と在り方を問う。
 オル太は2009年に結成された。現メンバーは多摩美術大学美術学部油画専攻出身の長谷川義朗、井上徹、Jang-Chi、川村和秀、メグ忍者、斉藤隆史の6人である。