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オルガネラ レビュー|齋藤雅宏 (Kapoディレクター、アートコーディネーター、アーティスト)



オル太は展覧会「内臓感覚_—遠クテ近イ生ノ声」の会期が終わる間近の2013年8月22日に、金沢市内のアートスペース Kapoでイベント「オルガネラナイト —14歳のインセクト」を行なった。
私自身、内臓感覚展では展覧会アシスタントとして彼等の作品《オルガネラ》を現場で目の当たりにし、「14歳のインセクト」が行なわれたKapoではアートスペースのディレクターとして準備段階から関わった。ひと夏を通じて、オル太という表現集団と接し、彼等が持っている表現の可能性とその幅に興味を惹かれた。「14歳のインセクト」というこの不思議なタイトルのイベントから、彼等の表現について考えてみたい。

このイベントのタイトルは、オル太が金沢での滞在中にメンバー内で読み回していた楳図かずおのSF長編漫画「14歳」から触発されたものだという。この漫画の中で「14歳」と「虫」は重要な要素である。
漫画の舞台は22世紀。鶏肉製造工場内、培養液中のササミの細胞から鳥の頭を持つ異形の天才人物が生まれる。天才の彼はその年に生まれた子供が14歳になった段階で人類と地球が滅亡する運命であることを知る。その後、世界中の植物が突然枯れ始め、地球が壊れ始める。人類と同じく滅亡の運命を持った宇宙人が生殖の可能性を求め襲来するも、人類の遺伝子に未来がないことを悟り立ち去る。立ち去る際に、ロケットのエネルギーとして地球の霊的エネルギーが奪い取られる。それが原因となって天災や異常気象が起こり、民衆が混乱。人類存続をかけて宇宙に旅立つ選ばれし子供たち。だが、大破滅の波はアンドロメダ星雲までにも波及しており、一行は宇宙の果てを目指す。宇宙の果てにたどり着き、宇宙の外に飛び出すと宇宙は1匹の虫の中に存在していて、その虫が瀕死の状態だったために宇宙の荒廃が起こっていた事を知る。
この漫画では、地球の環境問題から社会問題、科学文明までを含んだSF的な物語が、虫と宇宙の間という倒錯したスケール感の空間で展開し、楳図の形而上学的な表現に終止圧倒される。

オル太の《オルガネラマップ》(p. 00)(以下、マップ)に目を移してみる。これは作品《オルガネラ》の背景となる世界の見取図である。マップには展覧会のテーマである「内臓感覚」が中心にあり、「細胞」から「人間」、「太古」から「現代」、「個」から「社会」などの サイズ/時間/関係 のスケールが記されている。様々なキーワードがそのスケールの隙間に記されており、《オルガネラ》で私たちが目撃した動作や振る舞いに関する記述と人型は建築模型の人スケールに見え、マップ全体が計画図面のようにも見ることができる。
オル太はアーティストトークの際、メンバー内ミーティングで使っているホワイトボードを紹介した。そこには多くのキーワードとドローイングの羅列、細かな動きに関するメモがあり、マップになる前のカオスの状態がそこにあった。オル太は作品制作にあたり、「想像力を共有して膨らませる。それをお互いに理解した上で何が出来るか。」*¹ を議論し、積み重ねていくことで完成形に向かうという。
最終的に、このSF的世界の見取図に記されているスケールや言葉がオル太のパフォーマンスの道標となるが、「想像力が働くような自由度」*²が求められるプラットホームでもあるためにこのマップは抽象性を持っている。

美術館の会場で彼等が行なったパフォーマンスの一つ一つの動きは、このマップの中にいる人スケールの「うごめき」とでも言うべき振る舞いを演じたものだろう。会場の光庭を囲っているガラス面を細胞膜とする見立てや、貝類からほ乳類までが螺旋状に繋がった造形は、楳図の「14歳」にもみられるような倒錯したスケール感を思わせる。マップを内包した表現身体の振る舞いによって《オルガネラ》世界の時間と空間が、この舞台で体現される。舞台の背景に流れる音源は、パフォーマンスの中で言葉を使用しない本作品にとって、作品世界における時間軸の中心を担っている。断片的な音で構成される抽象性が高い音楽が作品に果たす役割は大きい。

「14歳のインセクト」は「だつお」と「たんきゅん」をゲストアーティストとして招いてのパフォーマンスイベントである。だつおは2011年にインターネットのコミュニティお絵かきサイトで誕生、幼虫やロリコンを崇拝する。たんきゅんは、みやまゆとチャンユメのツインボーカル&トークで思春期JCワールドを表現するガールズポップデュオだ。
だつおのライブパフォーマンスでは自らの肉声は使わず、自作の歌詞を自動音楽作成サイトで自動変換し、出来上がった歌曲データを歌詞テキストと共に観客に視聴させた。2人組のたんきゅんは女子中学生に扮し、完成度の高い楽曲とウイットに富んだパフォーマンスで観客を魅了した。2012年に結成したたんきゅんは2013年現在14歳で、中学生を卒業する2014年春までを活動期間としている。
メディアを駆使し、また自身のアイデンティティを仮設することで表現活動を展開する2組のアーティストはオル太と同様にそれぞれ自作の見取図を表現身体に内包しているのだろう。現在の情報化社会において独自の文脈をつくり、同時代を生きるための道標としての見取図は、表現者のみならず必要なものであるのではないだろうか。オル太やだつお、たんきゅんは、古代に対する想像力も新しいテクノロジーに対する創造力も等しく扱い、それを悦びに昇華する。
オル太の作品世界は、私たちが生きている現実の世界と切り離されている訳ではなく、繋がっている。そして「ポップスもできます。」*³と言う様に、オル太の表現方法は一様ではなく、出会いや場所による変化そのものを愉しんでいるようだ。私たちが生きる社会の変化とともにオル太のこれからの活動に期待したい。


*¹ アーティストトークでのJang-Chiの発言から。(2013年4月28日/金沢21世紀美術館 レクチャーホール)
*² アーティストトークでの長谷川義朗の発言から。(2013年4月28日/金沢21世紀美術館 レクチャーホール)
*³ 飲み会でのメグ忍者の発言から。(2013年5月14日/金沢市内某所)