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||:幽霊トリオをうつ:||

2015 / City 2014-2016 /

サミュエル・ベケットの映像作品「幽霊トリオ」を西荻レヂデンスにて撮影する。西荻窪のビリヤード山崎で、「幽霊トリオ」の台本にある人物や配置図の番号を球の番号に当てはめ、8ボールを打つ。
 
展示:「//:幽霊トリオをうつ://」
会期:2015年10月1日(木)- 25日(日)
会場:ビリヤード山崎(杉並区西荻北3-19-6)
西荻レヂデンス(杉並区西荻北3-18-10 4F)TERATOTERA
トークイベント日時:10月24日(土)19:00-
 
幽霊トリオをうつ
 
「あけてごらんなさい。」
 
球、キュー、テーブル、ブレイクショット。
ビリヤードで繰り返される、テーブルでの玉突き。
 
「誰もいない。」
 
溶明、床、壁、ドア、音楽、窓、人間。プレイヤーがルールの流れに従い、ショットを重ねていく。
西荻レヂデンスの前住人により白ペンキで塗られた部屋で、サミュエル・ベケットにより制作された作品「幽霊トリオ」を撮る。
 
「繰り返してちょうだい。」
 
2015年8月、10月に西荻レヂデンスに滞在した。「‖:幽霊トリオをうつ:‖」は、サミュエル・ベケットの映像の台本「幽霊トリオ」とビリヤードをもとに、西荻レヂデンスと80年以上も続くビリヤード山崎を舞台とする。この二つの場所は、99m程離れている。西荻レヂデンスが使用していた部屋は、老朽化した建物の4階にあり、現在は取り壊されている。部屋は幽霊トリオの台本と似た間取りをしていて、床と壁面は前の住人により粗雑に白く塗られていた。
そこで、まず台本どおりに「幽霊トリオ」を撮影する。台本には、間取りに番号のふられたもの(1.ドア、2.窓、3.鏡、4.安ベッド、5.ドアのそばに坐ったときのF、6.窓のそばに立ったときのF、7、ベッドの枕元のF)とカメラ位置(A.全景を捉えるカメラ位置、B.中距離からのカメラ位置、C.5と1、6と2、7と3の近距離ショットのカメラ位置)、セリフと動作が書かれている。撮影は8月に行なわれた。
10月にビリヤード山崎で、ビリヤードを打った。ビリヤード上には西荻の地図が投影され、1ショットごとに地図の縮尺が拡大され、球が移動する。最初はレヂデンスの建物から始まり、それが拡大され、西荻全域までの地図が投影される。33ショット打ち、8つのボールが全て落とされる。玉の1〜7までは、ベケットの台本に書いてある、「1.ドア、2.窓、3.鏡、4.安ベッド、5.ドアのそばに坐ったときのF、6.窓のそばに立ったときのF、7、ベッドの枕元のF」に当てはめられた。
それぞれの球の位置をリサーチし、記述していき、新たな台本を制作した。新たな台本をもとに、画像や映像を組み合わせ、西荻レヂデンスの部屋でもう一度再構成した「幽霊トリオ」を撮影した。「幽霊トリオ」にとって重要である音楽、「幽霊」をピアノとチェロ・バイオリンに分けて、ピアノはビリヤード山崎にあった電子ピアノで、チェロ・バイオリンは共に西荻レヂデンスで演奏、撮影した。
 
映像:
「幽霊」電子ピアノ演奏 10分36秒
GHOST TRIO 23分27秒
Shoot the GHOST TRIO 10分35秒
会場:ビリヤード山崎
 
「幽霊」チェロ・バイオリン演奏 10分36秒
Shoot the GHOST TRIO(ビリヤード) 11分28秒
会場:西荻レヂデンス
 
演奏協力:
ヴァイオリン:堀耕平、チェロ:鴨下真穂、ピアノ:吉田絵美
 
参考:「幽霊トリオ」サミュエル・ベケット
Geistertrio 1977 ~ Germany
Director Samuel Beckett
Cast Klaus Herm and Irmgard F?rst
Production company SDR
Running time 20 minutes
「GHOST TRIO(幽霊トリオ)」サミュエル・ベケット
作品は男の繰り返される行為と女のナレーションで構成され、前行為、行為、再行為と、同じ行為が3回繰り返される。毎回少しずつ変化があるが劇的な変化というものはなく、振り返る、移動する、ドアや窓をあける、頭を下げる、坐るなどを繰り返す。挿入曲はベートーヴェンのピアノ三重奏曲第五番「幽霊」の第二楽章である。
 
解説:
「西荻レヂデンス」は、アーティストが西荻窪駅周辺に約2カ月滞在し、制作・発表を行うプロジェクトです。今回は、パフォーマンス、彫刻、映像などを駆使し、ジャンルを超えた作品を国内外で発表する集団「オル太」が参加しました。
 オル太が作品の起点としたのは、不条理演劇の作家サミュエル・ベケットが1975 年にテレビ放映用に書いた戯曲「幽霊トリオ」です。この戯曲には、白い部屋の中で、窓に近づいたり鏡を覗いたりといった行為をぎこちなく繰り返す男が描かれています。その姿は、テレビという箱の中を彷徨っているようで、深い孤独と、他者と繋がりたいという人間の根本的な欲望を感じさせます。
 オル太は、日本国内では鑑賞困難なこの映像作品を、戯曲を読み取って再現しました。挿入歌や舞台の配置など多様な観点から解体し、映像、音声などの要素をビリヤード店とアパートの室内に分けて展示しました。「‖:幽霊トリオをうつ:‖」は、2 つの会場を行き来する鑑賞者の記憶の中でだけ、1つの作品として浮かび上がりました。
 オル太は、滞在先のアパートの部屋が「幽霊トリオ」の舞台図面と似ていたことから、今回の作品を着想しました。そこに、展示会場となる老舗のビリヤード場と滞在する西荻の街を織り込みつつ、「幽霊トリオ」の様々な要素を解体、再構築することを目指しました。
 まず、舞台図面では窓やドア、家具に番号がついていることに注目。ビリヤード台に西荻の地図を投映してゲームをしました。球が止まった地点を実際に訪れて、周囲の窓やドアを撮影。その画像を投映したアパートの室内で、メンバーが「幽霊トリオ」の男を演じて、いわばオル太版「幽霊トリオ」を撮影しました。
 展示会場は「ビリヤード山崎」の2 階。床にオル太版「幽霊トリオ」を投映し、ビリヤード台には作品の資料ともいうべき西荻の地図も投映しました。壁を隔てた小部屋では、戯曲を忠実に再現した、もう一つのオル太版「幽霊トリオ」の映像がモニターで流されました。
 滞在先のアパートの部屋も展示会場となりました。こちらには、西荻の地図を投映したビリヤード台でゲームをした映像を展示。ビリヤードの偶然性を通して「幽霊トリオ」に西荻の街がリンクされたことを示唆しました。
 原作には三重奏による楽曲が挿入されます。オル太はこの楽曲も解体し、各パートを演奏する映像と音声を2会場に分けて展示しました。アパートではピアノの演奏が響き、モニターにチェロとバイオリンの演奏風景が無音で流れ、「ビリヤード山崎」ではその逆になります。
 ベケットの戯曲からもう一つの物語を再構築することで、部屋という小さな空間と、個々人の選択の結果として形成される「街」、そして「もの」に宿る人々の記憶の関係性を探る。オル太の「‖: 幽霊トリオをうつ :‖」はそんな試みから生まれた作品でした。(文:髙村瑞世)
http://teratotera.jp/events/西荻レヂデンス-‖-幽霊トリオをうつ‖/
http://nishiogiresidence.blogspot.com/2015/10/

写真:松尾宇人