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波ものみこむ手

2019 / SAITO Takafumi

東日本大震災以降、自身が考え続けてきた「海」を題材に個展「波ものみこむ手」を開催。個展では、大森海岸(東京)や九十九里浜(千葉)でマイクロプラスチックを採取し、作品の素材に用いて、サーフボードやかまぼこなど、「海」を連想させる立体作品を製作した。マイクロプラスチックは大量生産されたプラスチックが廃棄物として海に流出し、波に揉まれ粉末状になり、食物連鎖の中で生命の内部に蓄積されていく。このサイクルを、フェデリコ フェリーニの映画「カサノバ」で、主人公のカサノバや参加者が、作り物の鯨の中で映写機を使った胎内めぐりをするシーンから新たに構想し、マイクロプラスチックによる無機物があらゆる物や生命の胎内めぐりをテーマに作品を製作した。大小の単位が入れ替わり、刻まれたものの拡散を回収しながら、海の動かなくなった生物に息を吹き込み、もう一度生き返らせる物語である。
 
個展:「波ものみこむ手」
会期:2019年1月30日(水)-2月10日(日)
会場:Art Center Ongoing、東京
協力:オル太
http://www.ongoing.jp/ja/artcenter/gallery/index.php?itemid=685
 
アーティストトーク「Pre Ongoing School」 
日時:2月3日(日)15:00-
場所:Art Center Ongoing 会場
 
トークイベント
出演:片岡香(川崎市岡本太郎美術館 学芸委員)斉藤隆文
日時:2月9日(土)19:00-
場所:Art Center Ongoing 1F
 
斉藤隆文は1986年千葉県生まれ。2012年に多摩美術大学大学院美術研究科絵画専攻を修了し、現在国内外の様々な展覧会で発表を続ける美術家です。個人とは別に、2009年に結成したアーティスト・コレクティブ「オル太」のメンバーとしても活動しています。
今回の個展「波ものみこむ手」では、サーフボードやかまぼこなど、「海」を連想させるオブジェクトが会場に並びます。東日本大震災以降、斉藤が考え続けてきたテーマの一つである「海」。海水浴場のすぐ近くで幼少期を過ごしたこともあり、「海」とは、斉藤にとって身近な存在でしたが、震災を機に、改めてその大きな存在について考え始めたといいます。
本展覧会のきっかけの一つに、マイクロプラスチックという素材との出会いがありました。マイクロプラスチックとは、海に捨てられたプラスチック製の廃棄物が波に揉まれ粉末状になったもので、近年、海の環境を悪化させるとして大きな問題となっています。人間が日常生活の中で使用する洗剤に含まれる粒子や、メラミンスポンジもその原因の一つです。海中に大量に含まれているマイクロプラスチックは、食物連鎖の長いサイクルの中で人間の体内へと取り込まれ、人体にも影響を及ぼすことが分かっています。
ではここで環境問題を斉藤がテーマにしているのかというと、必ずしもそうではありません。むしろマイクロプラスチックの素材としてのおもしろさに着目しているのです。もともとは製品として人々に扱われていたものが、長い時間をかけて粉末状になり、巡り巡って人の身体に取り込まれていく…。そうした移り変わる素材の存在が斉藤を魅了します。
マイクロプラスチックは、一般的な議論のなかでは「有害なもの」としてのイメージが固定されています。斉藤はそのマイクロプラスチックに「素材としてのおもしろさ」という解釈を加えました。そこには、事実だと信じられていることに対して、もう一つの視点をそっと提案するような、発想の自由さがあります。
斉藤は、過去の作品から続くテーマに「わからないことを考える」ことをキーワードに挙げています。彼にとって、作品を作ることとは、わからなさを受け入れつつも、それについて考えることを諦めないことでもあります。マイクロプラスチックが元々どこにあったのか? どのような経緯を経てここへたどり着いたのか? それにはどれくらいの時間がかかったのか? それらは簡単に答えを出すことができない「わからない」問いですが、想像すること、考えることの地平は無限に広がっていきます。
おもしろさを伴う「素材」と、そこから導き出される個々の立体作品が作り上げる「物語」。斉藤隆文が浮かび上がらせる詩的な連関による「わからなさ」を、ぜひこの機会に多くの方々にご体験いただければと思います。 Art Center Ongoing 高橋萌香